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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)111号 判決 1985年7月31日

東京都江東区大島七丁目三九番三-二〇三号

原告

中沢孝幸

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被告

麹町税務署長

内藤利文

右指定代理人

大沼洋一

柳橋新作

沼澤勇一

守屋和夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五六年分所得税に係る更正の請求について昭和五八年五月三一日付けでなした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  確定申告

原告は昭和五七年三月一二日、原告の昭和五六年分所得税の確定申告を次のとおりなした。

(一) 総所得額 三二八万六四七一円

(二) 分離長期譲渡所得の金額 二七二七万三九〇〇円

(内訳) 収入金額 三〇〇〇万〇〇〇〇円

取得費 一五〇万〇〇〇〇円

譲渡費用 二二万六一〇〇円

特別控除額 一〇〇万〇〇〇〇円

(三) 所得税額 五五五万八二〇〇円

2  更正の請求と本件通知処分

原告は昭和五八年三月七日、被告に対し、右分離長期譲渡所得の金額を零円、所得税額を一〇万三六〇〇円とする更正の請求をしたところ、被告は同年五月三一日付けで原告に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をなした。

3  本件通知処分の違法

(一) 前記1(二)の分離長期譲渡所得に係る収入三〇〇〇万円は、原告が実父中沢村人から相続により取得し、両者を通じて一〇年以上所有した別紙一の土地建物の共有持分一五分の二(以下「本件資産」という。)を、昭和五六年一一月二五日訴外有限会社中沢商店(以下「中沢商店」という。)に売渡した(以下「本件売渡し」という。)代金である。

(二) 原告は昭和四九年一月以降、右の建物に居住していた。

(三) 以上のとおり、本件分離長期譲渡所得については租税特別措置法(以下「措置法」という。)三五条一項所定の特別控除の適用があるから、更正の請求のとおり同所得金額は零円となるべきであり、本件通知処分は違法である。

4  前置手続

原告は本件通知処分に対し昭和五八年八月二日異議申立てをしたが、被告は同年一〇月二八日付けで同棄却決定をした。そこで、原告は同年一一月二九日審査請求をしたが、国税不服審判所長は昭和五九年五月三〇日付けで同棄却裁決をした。

よって、原告は本件通知処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3のうち、(一)の事実は認め、(二)の事実は不知、同(三)の主張は争う。

3  同4の事実は認める。

三  抗弁(特殊関係者-措置法三五条一項括弧書)

1  昭和五六年三月末日当時の中沢商店の社員及び出資口数は別紙二の同日現在欄に記載のとおりである。

2  右事実によれば、中沢商店は本件売渡し時を含む昭和五六年度において措置法三五条一項括弧書中の「当該個人と政令で定める特別の関係がある者」であった(昭和五七年政令七二号による改正前の同法施行令二三条二項五号が右にいう政令である。以下右改正前のものを「旧施行令」という。)から、本件分離長期譲渡所得については措置法三五条一項所定の特別控除は適用がない。

なお、右の適用除外は、別紙二のうち原告の出資口数が仮に零であったとしても変わらない(同令同条同項参照)。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は、被告主張時における原告所有の出資口数を否認し、その余は認める。同2の主張は争う。

原告は昭和五四年五月ころ、それまで有していた別紙二の出資口数を清水秀子に代金三〇万円で売り渡し、以後は社員でなくなっている。

五  再抗弁

1  原告は本件売渡し当時、別紙二の中沢商店の他の社員と義絶状態にあった。

右の事実があるときは、中沢商店は、措置法三五条一項の「特別の関係がある者」に当たらないと解すべきである。

2  右の主張が容れられないとしても、「特別の関係がある者」の範囲については、昭和五七年政令七二号による改正後の措置法施行令(以下「新施行令」という。)二三条二項の趣旨を遡及的に本件分離長期譲渡所得についても類推適用すべきである。そうすると、原告は本件売渡し当時、中沢商店の別紙二の他の社員と生計を一にせず、かつ、本件売渡し後は売渡し家屋に同居していないから、同商店は措置法三五条一項にいう「特別の関係がある者」に当たらない。

六  再抗弁の認否

1  再抗弁1のうち、前段の事実は不知、後段の主張は争う。

右措置法三五条一項は「特別の関係がある者」について「政令で定める特別の関係にある者」と定め、その範囲の決定を政令に委任しているのであるから、政令の定めと異なる実質的関係によって「特別の関係がある者」の範囲を変更することは許されないというべきである。したがって、仮に原告主張の義絶状態という事実が存在したとしても、同商店が旧施行令二三条二項に該当することは明らかである。

2  同2のうち、原告が本件売渡し当時、中沢商店の他の社員らと生計を一にせず、本件売渡し後、売渡し家屋に同居していないとの事実は不知、法律上の主張は争う。新施行令二三条二項等の特例に関する経過措置を定めた昭和五七年政令七二号の附則二条は、明文で遡及効を否定している。また、右施行令二三条二項は、従前に比し租税負担軽減の範囲を拡張した規定であるから、統一的、安定的課税処分の維持、ひいては税務官吏の恣意による課税の不公平の回避という要請からも安易な類推・遡及的適用は否定されるべきである。

第三証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1(確定申告)、2(更正の請求と本件通知処分)、3(一)(本件売渡し)、4(前置手続)、抗弁1のうち原告を除く中沢商店の社員及び出資口数が被告主張時において別紙二「社員一覧表」記載のとおりであることの各事実は当事者間に争いがない。

二  措置法三五条一項の適用の有無

1  右1の事実によれば、原告を除く中沢商店の社員の出資金額の合計が別紙二のとおりである以上、原告の出資口数の存否を論じるまでもなく、措置法三五条一項(昭和五七年法律八号による改正前のもの。以下同様。)、同法旧施行令二三条二項五号により、中沢商店は、本件売渡し時を含む昭和五六年中において、同法三五条一項にいう「当該個人と政令で定める特別の関係がある者」に当たるから、本件分離長期譲渡所得が措置法三五条一項の特別控除の対象とならないことは明らかである。

2  原告は、本件売渡し当事原告と中沢商店の右社員らとは義絶状態にあったから、同店は右「特別の関係がある者」に当たらないと主張する。

しかし、別紙二の各社員と原告との間の身分関係は、同「原告との続柄」欄記載のとおり、いずれも自然血族又はこれを前提としたものであるから、縁組あるいは婚姻による身分関係における離縁、離婚、取消のように当該身分関係を解消する方法は法律上存在しないものである。したがって、事実上の離縁、離婚にあっては、一定の事実状態の存在が当該身分関係の解消に準じた効果を発生させることを肯定しうる場合があるとしても、原告と右社員との間の身分関係については、いわゆる義絶によって解消あるいはそれに準じた効果の発生を肯定する余地はないものというべきである。したがって、仮に原告主張の義絶状態が存在したとしても、中沢商店は右政令の条項にいう「特別の関係がある者」であって、原告の再抗弁1は失当である。

3  次に原告は新施行令二三条二項の趣旨を本件分離長期譲渡所得についても類推適用すべきであると主張する。しかし、新施行令の附則二条は、「改正後の租税特別措置法施行令(以下「新令」という。)第二章の規定は、別段の定めがあるものは除くほか、昭和五七年以後の所得税について適用し、昭和五六年分以前の所得税については、なお、従前の例による。」と定めて明確に遡及効を否定しているところ、本件については右の「別段の定め」も存在しない。したがって、新施行令二三条二項の遡及的適用はありえず、これと同じ結果を招来する類推解釈もまた許されないというべきである。

原告の再抗弁2は主張自体失当である。

三  結論

よって、原告の更正請求は理由がなく、これに対して更正すべき理由がないとした被告の本件通知処分は正当であるから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本和敏 裁判官 太田幸夫 裁判官 大島隆明)

(別紙一)

物件目録

(一) 千代田区有楽町一丁目一四番二三 (土地)

七三・六五平方メートル

(二) 同所 家屋番号 一四-二六 (建物)

(鉄筋コンクリート造陸屋根二階建)

一階 六六・七一平方メートル

二階 六九・九八平方メートル

(別紙二) 社員一覧表

<省略>

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